今月のスタッフ
2018.6.2
東 大介
今回、取材した宝達葛は450年前からほとんど製法を変えていませんが、一つ大きく変わったものがあります。それは原料です。
今年、宝達葛生産友の会が製造した葛粉は約350キロで、そのために用意した葛根は約9トンです。しかし、この9割以上が九州産で、地元産の葛根は1割にも満たないとのことでした。地元産がこれだけ少なくなったのには二つの理由があるそうです。
一つは葛根の成長に時間がかかることです。葛根は一度採掘すると次に根が育つまで30年もかかるそうで、近隣の山では大概の場所が成長待ちです。
もう一つは、葛根を採掘していい場所が減ったことです。葛作りが盛んだった昭和はおおらかな時代でしたが、今は田舎の山といっても誰かの私有地で、そこを何メートルも掘り返すわけにはいきません。私有地でなくても、一帯では杉を育てているため、葛根を掘ると、杉の生育を阻害することになります。
この状況は葛根の調達先の九州でも変わらず、国産の葛根は減少の一途をたどっています。ところが、意外なことに大量の葛根、しかも日本の葛の葛根を持て余している国があります。
それは1876年に日本から飼料作物、庭園植物として葛を導入したアメリカです。現在、アメリカでは畜産の業態変化で葛が不要になり、放置された葛は南東部で大繁殖して、生態系に深刻な影響を与えているようです。国際自然保護連合の「世界の侵略的外来種ワースト100」にも登録されました。
葛による損失は年1~5億ドルとばく大で、葛の駆除に農薬や動物を使うだけでなく、機械で根っこごと取り除くケースも多いようです。
掘り出した葛根を現地ではただ焼却しているようなので、個人的には試しに日本へ輸出してみてはと思います。米なんかより、よほど受け入れられるのではないのでしょうか。
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東 大介